アン・モロー・リンドバーグ 落合恵子訳 『海からの贈りもの』
著者が、休暇中に過ごした海辺の家でさまざまな貝をみつめながら
その形や名前から連想する人生哲学を綴ったエッセイ。
とかく現代の女は忙しく、家族の世話や仕事、さまざまな人間関係に疲れている。
しかも女とは「与え続けることを止めることができない」ものだという。
ものを持たず外面的にはシンプルに、そして内面的には自足し
ごく近しい人たちとの人間関係を充実させるべし。
与え続けて泉が枯れてしまわないように女もまた満たされなければならない・・・というような内容だ。
最近の女性誌の巻頭に書かれているような
わりとありがちなエッセイのような気もする。
だが、これが書かれたのは1950年代、今から60年ほども前のことらしい。
(終章のみ1975年に追加されている)
この時代にすでにアメリカの女性というのは
車でスーパーに行き、食洗機や新しいストーブなどの機械の使い方に難儀し、
慈善事業やらPTAやら教会やら仕事やらの人間関係に辟易としていたらしい。
日本は戦後でどろどろだった頃にこれが書かれたと思うと感慨深い。
この本は、高校の卒業式のときに先生にもらったものだ。
それから十数年放置していたのだが、もらいものだし、
この本をマイベストに選んでいる人も多いし
いつか読もうと思って手放すこともなかった。
とくに担任だったわけでもなく、部活の顧問でもなく、
なぜあの先生がわたしにこの本をくれたのか、今でもわからないのだが
オンもオフも、あまりに多くの人と関わりすぎて少し疲れている私には
なんとも沁みるものがあった。
先生がそれを予感していたわけではないと思うけれど。